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貴金属を知る貴金属のやわらかい話

知られざるプラチナの歴史

#歴史と文化
今や宝飾品としてだけでなく、幅広い産業で活用されている貴金属・プラチナ。しかし、その歴史を振り返ってみると、他の貴金属ほどにはその価値を認められていなかった時代もありました。プラチナはどのようにしてその価値を見出されてきたのでしょうか――人類とプラチナの意外な関係をひもときます。

そもそもプラチナってどんな金属?

プラチナは今から約25億年前、まだ地球上にバクテリアしか存在しなかったと考えられている時代に、巨大な隕石によってもたらされたという説が有力です。現在、プラチナが採れる場所が南アフリカや北米、ロシアなど限られた地域であることが、プラチナが隕石によってもたらされたという説を裏付ける根拠の一つとされています。

プラチナの特性は熱に強いこと。その融点(溶け始める温度)は約1768℃と、銀の961℃、金の1064℃、鉄の1536℃と比べて非常に高く、プラチナが熱に溶けにくい金属であることがよくわかります。また、酸やアルカリにも強く、錆びたり変質したりしにくい点もプラチナの特性の一つです。

クマさん、にゃんこ、博士が話をしている。クマさん「25億年前に巨大隕石が?!」博士「その隕石がプラチナをもたらした!?」

古代文明とプラチナ

人類とプラチナの歴史は古く、紀元前1200年ごろには古代エジプト人がプラチナの装飾品を身に付けていたと考えられています。現存する最古のプラチナ製品は紀元前700年ごろのエジプトの王族の墓から出土した「テーベの小箱」というもの。金や銀で作った箱の表面にプラチナが埋め込んである非常に美しい箱で、現在はフランス・パリのルーブル美術館で見ることができます。また、南米のインカ帝国でも、紀元前100年ごろからプラチナが装飾品に使われていたことがわかっています。
融点が高く加工が難しいプラチナを、古代の人たちはどのようにして加工していたのでしょうか。その方法は今も謎に包まれています。

「小さな銀」から、世界で愛される貴金属へ

ヨーロッパの人たちがプラチナと出会ったのは、1500年代に入ってからです。当時、南米大陸にやってきたスペイン人がインカ帝国で大量のプラチナ製品を見て銀と勘違いし、ヨーロッパに持ち帰りました。しかし、銀よりも融点が高いプラチナは銀と同じ方法では加工することができず、歴史の表舞台から一旦姿を消してしまいます。

プラチナが再び歴史に登場するのは、1700年代になってから。1735年にコロンビアを訪れていたスペイン人の将校がピント川でプラチナの鉱石を発見したのがきっかけでした。彼は発見したプラチナを「ピント川の小さな銀(プラタ・デル・ピント)」と名付け、これがプラチナの語源になったと言われています。

その後、プラチナは錬金術が盛んだったヨーロッパに再び持ち込まれ、研究材料に。その過程でプラチナの加工技術が発展していきました。そして、1750年ごろになってようやく、科学者によってプラチナと銀が異なる貴重な金属であるということが証明されると、ヨーロッパの王侯貴族の間で「プラチナは美しくて貴重なものだ」という認識が広がっていきました。手入れを怠ると酸化して黒ずみやすい銀と違って、時間を経ても白く美しい輝きを失わないプラチナは、次第に人々を魅了していったのです。日本でも明治時代にプラチナの装飾品が日本に輸入され始めると、その清楚で上品な輝きが人々の心をとらえ、たちまち人気を集めました。その人気は今も衰えておらず、たとえば結婚指輪にはプラチナの指輪がよく選ばれています。

また、熱に強く酸化しづらいというプラチナの特性は工業の分野でも注目されるようになり、1800年代後半以降、様々な用途に活用されるようになりました。日本でも1899年(明治32年)には、田中貴金属の前身である田中商店が日本で初めてプラチナの工業製品を製造。当時、日本国内でプラチナを加工できる工場を持っていたのは、田中商店だけだったと伝えられています。

ますます広がるプラチナの可能性

長い間、その特性が解き明かされなかったために、「使い道がないのでは?」と誤解されてきたプラチナですが、今では宝飾品のみならず幅広い用途に使われるようになっています。特に近年では、自動車の排ガス浄化装置(触媒)や燃料電池など、環境負荷を軽減する先端技術に不可欠な存在となっています。クリーンエネルギー社会の実現にも貢献するプラチナは、地球と人類の未来を支える素材と言っても過言ではありません。田中貴金属をはじめ多くの企業がプラチナの研究に取り組んでおり、その可能性は今後ますます広がっていくものと期待されています。

にゃんこ、クマさんが話をしている。にゃんこ「いろんな用途に使われているんだね」クマさん「まさに可能性の塊なんだね」

<参考文献>
コツコツためる「金・プラチナ」/池田 収(ダイヤモンド社)

「貴金属と茅場町の意外な歴史」
https://www.tanaka.co.jp/knowledge/fun-facts/preciousmetal-and-kayabacho/

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