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貴金属を知る貴金属のやわらかい話

貨幣としての金

#金 #歴史と文化
金は、古くから世界各地で貨幣としても使われてきました。今回は金が貨幣として使われる理由や、貨幣としての金の印象的なエピソードを、いくつかご紹介しましょう。

金が貨幣として使われるのはなぜ?

大昔、まだ貨幣がなかった時代、人々は物々交換をして欲しいものを手に入れていました。しかし、物々交換では常に自分の欲しいものが手に入るとは限りませんし、交換するものの価値が大きく異なると、どちらか一方が損をしてしまう可能性もあります。

そこで、考え出されたのが貝や石などを現在のお金のように使う仕組みです。たとえば、古代の中国では「貝」がお金として使われていました。「資」や「財」、「買」など、お金に関連する漢字に「貝」の字が多く使われているのは、このためです。

しかし、ある地域で「お金」として使われているその貝も、「お金」として扱っていない他の地域に行けば、何の価値もなくなってしまう可能性があります。また、人類の歴史を見てみると、塩や穀物、家畜などが「お金」として使われたこともありましたが、これらは持ち運んだり貯めたりするのが難しいため、「お金」として使うには便利とは言えませんでした。

そこで、代わりに使われるようになったのが、金属や貴金属でつくった貨幣です。金属や貴金属はコインに加工すると持ち運びも楽で貯めやすく、特にさびにくい貴金属は、貴金属そのものの価値が失われません。貴金属の中でも金は、その美しさや希少さに加え、「柔らかくて加工しやすい」、「サビにくい」といった特徴があることから、時代や国を越えて変わらない価値を持ち、世界各地で貨幣(金貨)として、さかんに活用されました。

世界最古の金貨にはライオンの顔が

現在見つかっている中で世界最古の金貨は、紀元前670年ごろのメソポタミア時代に栄えたリディア王国(現在のトルコ西部)でつくられた「エレクトロン貨」です(※1)。

エレクトロン貨は直径1cm強の円形で、表面には王の象徴であるライオンの顔が描かれていました。エレクトロン貨は重さの違うものが数種類、確認されており、あらかじめ金の重さを量った上でつくられていたものと考えられています。このころ、日本はまだ縄文時代ですから、いかにリディアの文明が進んでいたかが、わかりますね。

※1 出典 コツコツためる「金・プラチナ」P64(池田収・著/ダイヤモンド社)

中国初の金貨は四角形

一方、アジアでも、紀元前の中国で金貨がつくられたことがわかっています。現在確認されている中国最古の金貨は、戦国時代(紀元前403年~紀元前221年)に、揚子江の中流域で栄えた楚(そ)という国でつくられた「郢再(えいしょう)」と呼ばれる金貨です。この金貨は、薄い板状にした金に印をたくさん押し、それを小さな四角形にカットしてつくられました(※2)。金貨というと円形のイメージが強いですが、中には「郢再」のように四角形のものもつくられていたのですね。

※2 出典 日本銀行金融研究所「中国貨幣の歴史」
https://www.imes.boj.or.jp/cm/research/kinken/mod/gra_china5.pdf

贈り物や褒美として使われる金貨も

日本でも奈良時代(760年)に国産初の金貨「開基勝宝(かいきしょうほう)」(※3)がつくられて以来、何種類もの金貨がつくられてきました。その中で最も有名なのは、日本最大の金貨として知られる「天正長大判(てんしょうながおおばん)」(※4)でしょう。

この大判は天正16年(1588年)に豊臣秀吉がつくらせたもので、縦17cm、横10cmと大きく、重さは1枚165gもありました。そんなに大きいと持ち運びが大変だったのでは……と思ってしまいますが、実はこの大判は日常的に使う通貨としてではなく、手柄を立てた家来への褒美(ほうび)や親しい人への贈り物として使われたと言われています。このように権力者からの褒美や贈り物として金貨が使われた例は、日本だけでなく世界各地でも確認されています。

※3 出典 東京国立博物館 名品ギャラリー
https://www.tnm.jp/modules/r_collection/index.php?controller=dtl&colid=E19576

※4 出典 日本銀行「お金の話あれこれ」
https://www.boj.or.jp/announcements/education/data/are02j.pdf

ピアノの中から金貨が!

時代や場所が変わっても価値が失われない金貨は、代々家族に受け継ぐ宝物として、もしくは将来への備えとして、大切に保管されてきました。そんな誰かが大切に保管していた金貨が、数百年の時を経て思いがけず発見されることがあります。

最近では2017年、イギリスのある大学に寄贈されたピアノの鍵盤の下からビクトリア朝時代(1847年~1915年)の金貨が900枚以上も発見され、話題を集めました。金貨は重さにして計6kg超もあり、地元メディアでは「数十万ポンド(数千万円)の価値がある」と報じられました(※5)。いったい、いつ誰が何の目的で、こんなところに保管していたのか、想像が広がりますね。

現在、金貨を通貨として使っている国はなくなったと言われています(※6)が、資産形成はもちろんのこと、そのデザイン性から趣味のコレクションアイテムとしても、金貨は今もなお、多くの人に愛され続けています。

※5 出典 AFP通信
https://www.afpbb.com/articles/-/3126057

※6 出典 東京経大学会誌259号P119
https://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/653/1/keizai259-15.pdf

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