#銀
毎日当たり前のように使っていますが、改めて考えてみると鏡はとても不思議な道具ですよね。
どうして鏡には物が映るのでしょうか?
今回は、鏡に物が映る仕組みや貴金属との関わりについて調べてみました。
鏡はガラスでできていますが、ガラスには光を反射する(はね返す)性質があります。ただし、透明なガラスの場合、ガラスの向こう側の光がこちら側の光よりも強いと反射する光は見えず、向こう側の光が弱くなると見えるようになります。例えば、電車の窓を思い浮かべてみてください。昼間は窓ガラス越しに外の景色が見えますが、夜になって外の光が弱くなると見えなくなり、代わりに窓ガラスには車内の様子が反射して映し出されます。
鏡はこのようなガラスの性質を利用して作られたもので、光をより強力に反射させるためにガラスの裏側に銀がコーティングされています。銀は金属の中でも光の反射率が非常に高く、目に見える光をほぼ100%反射するので、ガラスに銀をコーティングすると明るくはっきりと物が映るようになるのです。つまり、私たちが鏡で見ているのは「銀が反射した光」ということになります。
実は、反射材に銀を使った鏡の歴史はそう長くありません。今の鏡とほぼ同じ形状のガラス鏡自体は14世紀の初めにイタリアのベネチアで作られるようになりましたが(※1)、当時は反射材として銀は使われていませんでした。その後、反射材の研究が進められ、1830年頃イギリスの化学者がガラスの表面に銀めっきを施す技術を開発。これが今の鏡製造技術の基礎となりました(※2)。
日本で初めて銀を反射材に使ったガラス鏡が作られたのは、明治時代(1868年~)に入ってからのことです(※3)。以来、日本の鏡製造技術は進化を続け、近年ではそれを応用してさまざまな製品が作られるようになっています。
例えば、都心のオフィス街などで建物全体が鏡のようなガラスで覆われた高層ビルを見ることがありますが、これに使われているのは、鏡と同じように銀などの金属をコーティングして反射力を強くした「熱線反射ガラス」(ミラーガラス)と呼ばれるガラスです。ビルのガラスの表面がキラキラと輝いて見えるのは、金属がコーティングされているからなのですね。このガラスを使うとマジックミラーと同等に、建物の中から外はよく見えるのに外からは内部の様子が見えないようにすることができます。
同時に太陽の光を反射して熱が室内に伝わるのを防いでくれるので、冷暖房を効率良く使うことができ、省エネ効果も期待できます(※4)。
また、環境にやさしい省エネ照明として人気の「LED電球」にも、銀が使われています。電球の周りに銀でめっきしたLEDリードフレームと呼ばれる部品を取り付けて光を反射させ、電球の光をより明るく強くしているのです(※5)。
このほか銀には「熱や電気を伝えやすい」「殺菌力が強い」など優れた特性があり、さまざまな分野で活用されています。美しいだけでなく、私たちの便利で快適な生活に欠かせない銀。その需要は、今後ますます大きくなっていきそうです。