#基礎知識
貴金属を誕生や結婚といった人生の節目に贈る習慣が、世界各国に伝わっています。なぜ、貴金属がギフトに選ばれるか、貴金属のギフトに込められた人々の想いを探ってみました。
ヨーロッパでは古くから「銀のスプーンを赤ちゃんにくわえさせると、一生食べ物に困らなくなる」という言い伝えがあり、それにあやかって出産祝いに銀のスプーンを贈る習慣が残っています。中世のヨーロッパにおいて銀のスプーンをはじめとした銀食器は富の象徴であり(※1)、今でも英語で「銀のスプーンをくわえて生まれた」というと「裕福な家に生まれた」ことを意味します。銀のスプーンには「経済的に恵まれた人生を歩んでほしい」という願いが込められているのです。なお、銀のスプーンの代わりに、赤ちゃんの誕生石が付いたベビーリングを贈ることもあります。
中国では子どもの生後100日の節目に「100歳まで生きられますように」との願いを込めて「百日宴」という宴会が催されます。百日宴では出産祝いとして、銀のブレスレット(腕輪)やアンクレット(足首につける輪っか状の装飾品)を贈るのが一般的です。中国では銀には魔除け効果があると信じられているので、赤ちゃんが無事に生まれますように、そして裕福になれますようにという願いが込められています(※2)。
トルコでは出産祝いに金貨を贈る習慣があり、贈られた金貨はリボンをつけて赤ちゃんの産着に飾られます(※3)。そのものが価値を持つ金は、どんな時代においても心強い資産。赤ちゃんに贈る金貨には「困ったときに、この金貨を役立ててほしい」という願いが込められています(※2、3)。
結婚の印に指輪を贈る習慣は中世にヨーロッパで広まったと言われています(※4)。世界的には結婚指輪には金が使われることが多いですが、日本では上品で奥ゆかしい輝きのプラチナが好まれます。結婚指輪に金やプラチナが選ばれるのは、時間が経っても色や輝きが変わらないため、永遠の愛を誓う指輪の素材としてふさわしいと考えられているからです。
インドでは女性が嫁ぐ際に金のネックレスや指輪などを持っていく習慣があり、女性の両親は娘に持たせるためにたくさん金製品を購入します。また、インドではヒンズー教の「アクシャヤ・トリティーヤ」というお祭りの時期に金を買うと縁起が良いと言われており、人々はこぞって金製品を買い求めます。アクシャヤ・トリティーヤが行われる4月~5月はインドのウエディングシーズンでもあることから、この時期はインドの金需要が増えると言われています(※5)。
かつて銀を貨幣として使っていたモンゴルでは、今も銀製品を資産として親から子に贈る習慣が残っています。特に牧畜を営む家庭ではその傾向が強く、子どもが10代の後半になると成人として身に付けるのにふさわしい銀製品(装飾品や馬具、煙草入れ)などが贈られます(※6)。
結婚記念日を年数に応じた名称で呼ぶ国もあり、日本では結婚25周年の節目を「銀婚式」として祝うことがあります。銀婚式は25年という長い年月を共に歩んできた夫婦の姿を「磨けば光るいぶし銀のような美しさ」に例えたもので、夫婦で銀製品を贈り合ったり、子どもや友人から銀製品が贈られたりすることもあるようです。
このように世界各地で、人生の節目のギフトに選ばれてきた貴金属。贈る相手や場面は違えども、共通するのは贈る相手の安泰と幸せを願う気持ちです。特に親から子に贈る貴金属は、将来にわたって自分の代わりに大切な子どもを見守ってくれるお守りのような存在でもあります。貴金属を贈る素敵な習慣、これからも大切に引き継がれていくと良いですね。