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世界の文化遺産と金

いつまでも輝きを失わない「金」は富や権力の象徴として、あるいは信仰の証として、古くから世界各地で建築物や装飾・工芸品に使われ、その一部は今も文化遺産として大切に守られています。今回は世界各地の文化遺産の中でも特に「金」とのかかわりの深い場所をいくつかご紹介しましょう。

太陽王が愛した輝きの
宮殿「ヴェルサイユ宮殿」
(フランス)

フランスのパリ郊外にあるヴェルサイユ宮殿は、もともとルイ13世が狩猟用に使っていた城館を、「太陽王」と称されたルイ14世(1638~1715年)が17世紀半ばに増築して宮殿にしたものです。当時を代表する建築家や造園家らを招いて完成した宮殿と庭園は、17世紀のフランスの文化・芸術のレベルの高さを物語る代表的な史跡として、1979年に世界文化遺産にも登録されています。

豪華絢爛(ごうかけんらん)な宮殿の中でも特にその美しさで知られるのが、1684年に完成した「鏡の間(The Hall of Mirrors)」です。鏡の間は長さ約73m、高さ約12.5m、面積約770平方メートルのギャラリーで、金装飾が施されたアーチ形の天井にはルイ14世の偉業が色鮮やかに描かれています。その名の通り、鏡の間には当時は大変な貴重品だった鏡が357枚も飾られています。すべての鏡は金の枠に縁どられており、窓から降り注ぐ日光を受けると室内はまばゆいばかりの輝きに満たされます。鏡の間は外交の場としても重宝され、1919年には第一次世界大戦を終戦に導いた「ヴェルサイユ条約」が締結された場としても歴史に名をとどめています。

鏡の間以外にも、宮殿には金の装飾がいたるところに。例えばフランス革命中に破壊され、2008年に復元された宮殿の正門「王の門」は、金箔約10万枚で装飾されているそうです。ヴェルサイユ宮殿を訪れる際には、せひ「金」にも注目して、見学してみてください。

祈りを受けて輝きを増す
「ゴールデンロック」
(ミャンマー)

美しさと清らかさを併せ持つ金はさまざまな宗教でも大切にされ、寺院や教会などの装飾にも多く用いられてきました。このうち仏教では金=仏の体の色と考えられており、世界各地に金を使った仏像や仏殿、仏塔などが数多く作られています。

ミャンマー最大の都市・ヤンゴンの北東に位置する「チャイティーヨー山」の頂上にある巨岩「ゴールデンロック」もその一つ。山頂の不安定な岩盤の上に今にも転がり落ちそうな絶妙なバランスでとどまっているゴールデンロックは、高さが7メートルもあり、さらにその上に7メートルのパゴダ(仏塔)が建てられています。岩の下にはブッダの髪の毛が納められているという言い伝えもあるそうです。

ゴールデンロックが金色に輝いているのは、お参りに来た人が金箔を貼り付けているから。ミャンマーでは「仏や寺の建物に金箔を貼り付けると幸せになれる」と考えられており、山頂にはゴールデンロックに貼るための金箔が販売されています。最近では不思議な岩のパワーにあやかろうと、海外からも多くの観光客が訪れているそうです。

金7トンを使った祭壇が圧巻!
「ラ・コンパニーア聖堂」(エクアドル)

キリスト教でも金は王位や尊厳を表す色として大切にされており、古くから教会の装飾に金が多く使われてきました。中でも群を抜いた豪華さで知られるのが、南米エクアドルの首都キトの旧市街にある「ラ・コンパニーア聖堂(ラ・コンパニーア・デ・ヘスス教会)」です。カトリックの「イエズス会」が1605年から約160年もの年月をかけて建てた荘厳な聖堂は別名「黄金の聖堂」と呼ばれ、その見どころは何といっても、金をふんだんに使った美しい彫刻や装飾の数々。中でも7トンもの金を使って作られた主祭壇は、見る者を圧倒する輝きを放っています。聖堂は1987年の大地震で大きな被害を受けましたが、現在は修復され、修復前後で微妙に異なる金の色のハーモニーを見ることができるそうです。

このほかにも世界には金を使った文化遺産がたくさんあり、金がいつの時代も特別で大切な存在だったことがよくわかります。何百年もの間、大切に守られてきた美しい文化財を私たちも次の世代に確実に引き継いでいきたいものですね。

【参考文献】

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